原文では To be or not to be, this is the question. だが日本語に約すのは難しい。
今回のタイトルの示すところが何であるかは分からないが、劇中劇で『ロミオとジュリエット』を進攻させようとしているところでハムレットからの引用とはいろいろと勘繰りたくなる。
さて本編。
煽りに「神よ、本気か……?」とあるように前回「ボクは誰のことも好きじゃない。もう攻略はやめだ」と衝撃の告白をした桂馬。
エルシィにも「なんでこんなことをやらなきゃいけなかったんだ、ボクはゲームやってりゃ良かったんだ。少しは責任を感じろ」とまくし立てる。
しかしこれについてはぐぅの音もでないほど正論である。
結局のところ主人公である桂馬は命をたてにやらされているだけで、それをやりたかったわけでもやらなければならない義理もない。
それでも自分の命や、女神篇では他のヒロインの命が掛かっているということもあって騙し騙しやってきたわけだ。
そんな自分のやってきたことを香織に「天理(ヒロイン)を利用している」と評され、天理に「誰も好きじゃない」と看破されてしまった。
その結果出た言葉が「もう攻略はやめだ」だったのだが……
傷心したフリをして天理の目の届かないところまで移動したところでエルシィに天理を守るように指示。
これは攻略の一環で本気じゃないで言っているわけではないと告げる。
なるほどこの展開はここまで神のみを読んできた読者であれば予想できる展開である。
が、
全然大丈夫そうじゃないんですけど。
桂馬の表情が見えていないエルシィは気づいていないが、かなりギリギリの状態に見える。
ここまで精神状態が追い詰められているのは前夜祭でちひろに暴言を言った時以来だろう。
あの時は自力では再起不能な状態だったが、今はまだかろうじてしがみ付いて攻略を続けている。
香織に指摘された「ヒロインを利用している」という事実。
天理に見抜かれた「誰も好きじゃない」という自身の心情。
そして自分が「やってきたことをやらなければならない」という現実。
モノローグもなく空を見上げる桂馬は何を思うのか。
しかしリアルは考える時間を桂馬に与えてはくれない。
世界を作るために10年前へとやってきた桂馬の元へ因縁深い相手が現れる。
歩美とちひろである。
歩美の方は名前だけは以前から出ていたのでいつかは出るであろうと言われていたが、まさかのちひろ登場。10年後、桂馬にとってはホンの1週間ほど前まで一緒にいて、攻略して、恋に落として、傷つけた相手。
でも相手はそんなことは知らないし、桂馬のことすら知らない。
ちひろとぶつかった桂馬を気遣いつつも、二人は去って行く。
そんな二人を見送りながらこれから起こる事、桂馬が起こすことを思い出す。
なにこの回想シーンやべぇ。(ちょっと編集してあるが)
セリフ無しでFLAG1から女神篇最終話のFLAG189までを最大限に圧縮するとこうなる、という回想シーン。
そうこれが、”桂馬のしてきたこと”なのだ。
駆け魂に憑かれた女の子を助けるという名分で、女神を復活させるという大義でやってきた恋愛ごっこの結果。
やりたかったわけじゃない、やらなければならなかった、その結果。
自分が傷つけたことは自覚しているし、自分が傷ついていることも知っている。
そしてこれは、桂馬のしてきたことであり、これからしなければならないこと。
目を背けてきた過去と未来を前にして落とし神は――――折れた。
天理の前で「もう攻略はしない」と言って折れたフリをしていたけれども、歩美とちひろにであったことで本当に折れてしまった。
まだまだ演技、という可能性も無くはないが天理に見えない位置で演じても仕方が無いし、実際に天理を屋上に誘導しておいてイベントを起こさないという状況になっている。
天理が桂馬の後姿を見かけているのでルートは潰れていないが、このままでは先に進めない。
そして桂馬自身も先に進むことを拒否している。
前夜祭のときは自己嫌悪して落ち込んでいるだけだったが、今回は自身の行動を悔いて未来を見ることを恐れている。
これは前回の比ではない。
神のみぞ知るセカイという作品において主人公である桂馬が自分自身と向き合うのは初めての展開であるが、これはあまりにも重い。
今まで何度か自分を省みる機会はあったが結局掘り下げられず答えは見つけられないでいた。
果たして桂馬は立ち上がることができるのか?(できなきゃ話は進まないが)
そして桂馬を奮い立たせるのは誰なのか?
前回は天理だったが、今回はどうなるのか。
本来であれば今までそういう役回りの無かったエルシィがやるべきなのだが、エルシィは既に桂馬を信頼というか信仰している域に達しているので今の状況に気づいていない。
ハクアであれば最初の「本気なわけないだろ」の時点で異変に気づけたかもしれないが、ここにはいない。
歩美とちひろは知り合いではないし、仮に2人慰められた場合はその2人をこれから傷つけてしまうという事実にきっと桂馬が耐えられない。
そうなると消去法的にも10年後のバスストップとの対比的にも、桂馬の予定ルートで暗喩されたように天理しかいない。
しかしその場合、桂木桂馬というキャラクターは鮎川天理というキャラクター無しには成り立たなくなってしまう。
さてさて、どうなってしまうのか。
現代での動きも気になるけれど、こっちの方が気になってしょうがない。
非常によい分析で感心しました。
返信削除桂馬がここまで折れそうになったのは初めてですし、そしてこの回想ガチでやっばいですよね。
女神編のこのあたりの映像編集したら心が折れそうです。
アニメの女神編ラストまで見て凄くよかったですが、その先がどうなるか気になって読んでみたらまあ・・・!
ちゃんと消化不良な部分が先に進んでる!すげえ!ちゃんと作者は矛盾や構造がわかってる!
その辺見ててすごいなーと感心することしきりなのですが、それをこうやって他人の文章で分析見せられると違いますね。
コメントありがとうございます。
返信削除原作だけでも十分すぎるほど破壊力のある回でしたが、アニメで女神篇をやっていたので尚更でした。
正直この回を見たら”何かせずにはいられなかった”となりました。
神のみはある程度の回答は示しすけれども最終的な解釈は読者に任せているところがあるので、色々考えながら読むと楽しいですね。